昨今の日本におけるコロナウイルス感染状況は段々と縮小していますが、未だマスクやアルコール消毒等の感染対策が必要な毎日が続いています。特に、東京都により定められた「三密」の状況である電車移動を憂い、他の方法での通勤を考えている方は多いのではないでしょうか。
国土交通省は平成29年に施行された「自転車活用推進法」を背景に、自転車通勤を奨励しています。その流れを組み、先月には楽天などの大手IT企業が自転車通勤推進宣言を掲げました。自転車は現代社会の、ひとつの大きなムーブメントと言っても過言ではありません。
しかし、玄関に立て掛けてあるママチャリに飛び乗り、いざオフィスへ…となる前に、自転車通勤の留意点について少しお話ししたいと思います。
自分に合う自転車を
自転車通勤を始めるにあたり覚えておいてほしいのは、自転車に乗ることも立派な運動だということです。
サイクリングは「有酸素運動」に分類される運動のひとつで、酸素を主なエネルギーとして身体を動かす運動のことを指します。
有酸素運動を一定時間(20分以上、1日の間なら数回に分けてもよい)続けると、エネルギー源が酸素から糖質、脂肪へと切り替わります。脂肪を燃焼することで、高血糖や高血圧などの生活習慣病発生リスクは低くなります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm1949/45/5/45_5_519/_pdf
また有酸素運動を行うことで、爽快感をもたらすβ-エンドルフィンが脳内で分泌されることが研究により判明しています。β-エンドルフィンは、ストレスを和らげる、集中力を高める等の効果がある物質です。つまり、仕事の前後に有酸素運動をすることで、自身のパフォーマンスを上げることができるのです。
しかし、これらは中程度の有酸素運動における効果です。
ここ日本で一般的な、主に「ママチャリ 」と呼ばれる自転車は5km以上の移動を想定して設計されていません。家から職場まで5km近くある方でも、往復では10kmとなります。自転車に乗ることの本質は「移動」です。適度な運動はとても身体に良いのですが、目的地までの距離や道中の地形によっては、適度を通り越してしまうこともあるでしょう。
ここで重要になってくるのが、実際に乗る自転車の種類や機能です。
1日に往復10km以上走る場合であれば、クロスバイクやロードバイクが適しています。ホイールが大きく、ギヤの段数も豊富で、中距離から長距離を走ることに長けています。これまでに何度か乗ったことがある方、既に乗っている方も多いのではないでしょうか。
坂の多い地域を走る場合なら、電動アシスト自転車が適しています。長く急な坂道でも、平地と変わらないスピードで走ることができます。また平地においても、荷物を担いで走るような状況では、漕ぎ出しを強くしてくれる電動アシスト自転車が効果的です。
快適な自転車通勤のためにも、愛車はかしこく選びましょう。
交通ルールを守ろう
自動車免許を取得されている方はご存知の通り、自転車も軽車両というカテゴリに分類される乗り物です。道の走り方ひとつとっても、細かなルールが定められています。……ここで「自転車通勤はちょっと」と諦めてしまうのはまだ早計です。電車遅延や交通渋滞に振り回される生活から抜け出すためにも、小難しい話は抜きに「道路のモラルを守る」程度に感じてもらえれば幸いです。
・曲がり角では徐行、一旦停止しよう
街中でよく見かける「止まれ」と書かれた赤い逆三角形の標識を覚えていますか。ご存じの通り、「一時停止」を意味する道路標識です。主に交差点に設置されます。そして、実はこの標識、自転車にも適応されるのです。前述の通り自転車も軽車両に分類されるため、一時停止義務が発生します。
一時停止するべき場所を通過するということは、大変危険なことです。一時停止標識は多くの場合、見通しの悪い交差点、狭い路地から広くて交通量の多い道路に繋がる地点に設置されます。そして、自転車事故の多くは出会い頭の衝突と言われています。
警察庁交通局の調査によると、平成29年に起こった自転車事故では、出会い頭の衝突が全体の5割を占めています。つまり事故の類型として、出会い頭衝突は起こりやすいパターンのひとつなのです。
しかし、これらのことを踏まえ、逆説的に考えると「一時停止するだけで大抵の事故は回避できる」ということになります。多様な状況はあれど出会い頭衝突の多くは、スピードを出したまま交差点や曲がり角に進入したことによって起こる事故だからです。
このような事故を防ぐためにも一時停止を忘れずに、また、見通しが悪いと感じたら早めにスピードを落として徐行することをお勧めします。
・ライトは自分のためだけじゃない
自転車は、夜間のライト点灯とリアライトまたは反射板の装備が義務付けられています。しかし、スポーツ自転車などは購入時に装備されてない場合が多く、それを知らずに乗っている方も少なくありません。
ですが自転車における、ライトの果たす役割は大きいです。前方の障害物を照らすことも大切ですが、自分が道路上にいることをアピールする目的もあります。
歩行者や自転車は前後から見たときのシルエットが細く、遠方からの視認が困難です。歩行者は安全な歩道を歩けばよいのですが、自転車は車道を走らなければいけません。車道は怖いと思うかもしれませんが、自転車と自動車が互いを認識し合うことで安全かつ円滑に走行することができます。
具体的には、前後ライトを点灯させることです。近年の自転車用ライトはとても性能が良く、何十m先をも照らせるフロントライトや、100m以上後方からも見えるリアライトなどが販売されています。これらをつけることにより、自動車などへ自身の存在を強く知らせることができるのです。
先程述べた、出会い頭の衝突事故も互いを認識していないが為に起こる事故です。暗い道を走っているところを想像してください。道の向こうの物陰からひとすじの光が見えたら「ああ、向こうに誰かいるな」と考えるのではないでしょうか。自分自身もライトをつけていれば、道の向こうの人も自分を認識できるのです。
歩行者等、立場上の優先はあれど、道路の上では皆平等です。ライトは人の為ならず、なのです。
盗難に気をつけよう
自転車で会社などの目的地に到着したとして、敷地内に駐輪場があればあなたは迷わずそこに停めるでしょう。ですが、駐輪場が用意されていない場合もあるのではないでしょうか。
そういうとき、どこかの道端に停めてしまうのは非常に危険です。
自転車が盗まれる要因の多くは、全くの無施錠で停めてしまうことです。当たり前のようですが、ちょっとした用事だから…とコンビニや銀行の前に自転車をそのまま置いておく、という経験があるのではないでしょうか。少し目を離した隙に盗まれてしまう、というのはよく聞く話です。安価な鍵で構わないので、こまめにロックすることをお勧めします。
次に盗まれる要因となるのが、長時間の駐輪です。特に、夜を跨ぐほどの長時間となると、盗まれるリスクは格段に高くなります。人目も少なくなりますし、自転車泥棒に隙を与えてしまうこととなります。しかし、出勤時は自転車だったけど、帰り際に雨が降ってきた…等の理由で乗って帰ることができなくなる状況もあるかと思います。その場合は、駅の駐輪場など、監視カメラがあり、夜間でも明るい場所に停めましょう。いくつかの手順を踏みますが、自転車を電車内に持ち込むことも可能です。
無事に家に帰ってきたとしても、盗難のリスクは残っています。マンション住まいの方なら駐輪場がありますが、容易に侵入できるような場所にあるのであれば油断はできません。一軒家住まいの方も、軒先に置いておくだけだと危険です。
家の中に入れてしまうのが一番効果的ですが、自転車の種類によっては難しい場合もあるでしょう。そういう時は、自転車カバーをかけておくという方法もあります。どんな自転車かわからなければ、自転車泥棒に目をつけられる可能性はうんと下がります。さらに、家ということを活かしてオートバイ用の鍵を使うこともできます。重くて携帯性は悪いですが、自転車用の鍵を遥かに超える頑丈さで盗難から守ってくれます。
さて、自転車通勤の留意点について述べてきましたが、やはり、気をつけなければいけない点は少なくないでしょう。ですが、電車などの公共交通機関も事故や遅延のリスクが付き纏うものです。また、大きな災害などで止まってしまうことも有り得ます。バスも自家用車も、毎日のように発生する交通渋滞から逃れることはできません。
自転車は周りの状況に左右されない、とてもパーソナルな乗り物です。また、バイクと違って建物の中に入れての保管や、電車に持ち込むなど、携帯性にも優れています。
快適な通勤を実現する為にも、是非とも自転車の活用を検討されてみては如何でしょうか。